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香港立法会(議会)でスパイ活動などを取り締まる国家安全条例案が可決され、3月23日に施行された。2020年に中国政府が導入した香港国家安全維持法(国安法)を補完するもので、外国人や外国組織・企業を標的にしている。
岸田文雄政権は、中国本土で邦人が不当に拘束され続けている状況を香港で繰り返さないよう対策を講じるべきである。
1997年に英国から中国に返還された香港では2047年までの50年間、中国の共産主義体制下にあっても資本主義制度の存続が認められた。中国返還後も香港が「アジアの金融センター」としての輝きを保つことができたのは、この「一国二制度」が機能していたからだ。
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しかし香港の李家超行政長官は国家の安全、つまり「一国」を優先する国安条例の制定を強行した。李氏は条例案可決後、今後は経済発展に力を尽くすと表明したが、「二制度」が形骸化した香港にヒトやカネが集まると考えているのだろうか。
米国務省のパテル副報道官は「(犯罪行為の定義が)信じられないほど曖昧だ」と国安条例を批判した上で、「米国民や国益にどんな潜在的リスクがあるのか分析中だ」と指摘し「声を上げるだけでなく、必要な措置をとることもためらわない」とクギを刺した。当然である。
折しも、中国当局がアステラス製薬の日本人社員をスパイ容疑で拘束してから1年がたつ。拘束理由は不明のままだ。15年以降、スパイ行為に関与したなどとして拘束された邦人は少なくとも17人に上る。
中国本土と同様、不透明な「国家の安全」が優先されるようになった香港でも同じことが起きかねない。国安条例には国家秘密窃取罪も盛り込まれたが、何が国家秘密に当たるのかを決める権限は行政長官にある。背後に中国の習近平政権が控えるのはいうまでもない。
日本の外務省は「状況を注視するとともに、香港における日本国民や日本企業などの活動・権利が尊重、保護されるよう中国政府と香港当局に求めていく」との報道官談話を出した。中国本土で邦人の不当な拘束が繰り返されている現実を忘れてはならない。注視するばかりでは不十分で、香港で同じ悲劇が起こらぬよう米国との連携を強めて行動していくべきだ。
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2024年3月24日付産経新聞【主張】を転載しています